Monday, April 04, 2011

ひろさちや『なぜ人間には宗教が必要なのか』書評


 著者は仏教徒であり、仏教に関する本格的な専門書も出しているが、一般読者向けの仏教の平易な入門書でよく知られている。

 本書は、仏教だけではなく、ユダヤ教、キリスト教、神道についても述べられている。

 僕がこの本を手にとったのは、ブック・オフ。ちょうど、アメリカのJohn Updikeという小説家の、イスラム教徒の青年を主人公にする"Terrorist"という作品の中での、クルアーンや旧約聖書に触れた箇所で難渋していたのがきっかけだった。

 著者が述べるように、日本人の多くは「宗教音痴」だと思う。たとえば、上の小説で、主人公のイスラム教徒の青年は、どうしても気になる女の子が教会で賛美歌を歌うというので、自分を抑えられずに教会に行ってしまうのだが、そこで牧師が旧約聖書に触れた説教をする。旧約聖書は、ユダヤ教・キリスト教のみならずイスラム教にとっても聖典であり、主人公は図らずもこの牧師の説教と、聴衆の昂揚に飲まれてしまうのだが、その場面ひとつとっても、世界宗教の常識を知らないとどうしてもピンと来ない。僕もそういう知識がずいぶん欠けていることを、思い知らされている。

 一神教の信者にとって、「神の命令に対して『なぜ』と問うこと自体が、神に対する反抗になる」。あるいは、「仏様は、(人知の及ばない仕方で)デタラメに救われる」など、信仰の本質的なことでさえ、日本人の多くには馴染みが薄い。

 本書は、そうした、世界宗教についてのごくごく基本的な知識を、まるで法事のときのお坊さんのように、誰にでもわかるように平易に解説してくれている。すぐに読めるし、分かりやすい。愉しくためになる読書だった。著者に感謝したいと思う。

 この数年、仏教の思想にはずっと惹かれているのだが、自分の信仰だと胸を張れるほどに、具体的な行為を実践しているわけでも、教義を学んでいるわけでもない。ただ、悩んだり、生きるのが苦しかったりするとき、ふと立ち止まって内面と静かに対話をするとき、自分を超えた、あるいは現世を超えた超越的な何かが気にかかることは、ここ最近ある。そして、それを説明する理論として、(一字一句というわけではないが)仏教の教義は、僕のこれまで生きてきた思想と親和性があることは間違いない。

 仏教については、自分が少しでも善く生きていくよすがとできればと思っている。



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