Saturday, March 31, 2007


奴隷貿易と謝罪


イギリスBBCではここ最近大きくとりあげられていて、今日は、TBSのNEWS23(筑紫さんの出てるやつね)で特集が組まれていたのだけど、今年の3月25日で、イギリスが奴隷貿易を廃止して200年になりました。イギリスでは、奴隷と同じ方法で首をつないでの400キロのデモ行進が行われたそうです。 ブレア首相は昨年の11月に「深い悲しみ」の意(謝罪ではない)を表明したのだけれど、イギリス国内では、「謝罪すべき」「謝罪の必要はない」と大きく意見が割れたようです。 また、数百万以上の奴隷を「輸入」した「新大陸」アメリカにおいても、両方の見方があるようです。


いつもニュースを見るたびに、よく分からない、居心地の悪い思いをするのだけど、改めて、行為の直接的な責任者ではない人間が行う謝罪とは何か、考え込んでしまいました。 謝罪を心から求める人がいる。「それゆえに」謝罪することが必要だ。「謝罪」がこういった文脈で提供されるとしたら、それはもはや字義的な意味での謝罪ではない。 昔、小林よしのりが『朝まで生テレビ』での戦後補償についての討論で、「『謝罪』っていうか…、はっきり言いましょうよ、お金でしょ?」って発言してバッシングを受けたことがあったらしいけど…(笑)。 でも、政治的文脈では「謝罪」という言葉にはこういった捩れがあるし、関係者間の駆け引きを伴う。



奴隷貿易の歴史やアメリカ、イギリスの報道を簡単にネットで調べたんだけど、やっぱり物事はそれほど単純ではないようです。 Wikipedia(日本語版)を見ると、奴隷の「供給」は、主に当時のアフリカの黒人の権力者やアラブ商人によって、ヨーロッパ人との商取引を通して行われたもので、いわゆる「奴隷狩り」は15世紀の奴隷貿易当初を除いて行われていなかったという旨が記されていました。そうだったんだ!(日本人が奴隷として「取引」されたこと、豊臣秀吉が奴隷貿易の禁止令を出したことも書かれてある。そうだったんだ!)




本当かなぁと思っていろいろと調べてみると(好奇心からネットでやっていることだから、もちろん、一次情報にあたることはできないけれど)、たとえば、BBCの以下のサイトにも、奴隷貿易に現地アフリカ人が「供給者」として関与していたことが書かれてある。




さて、「謝罪」の問題。程度についての議論はあるだろうけれど、奴隷貿易が、欧米に「黒人」というマイノリティを出現させ、そして彼ら彼女たちは、現在にいたるまで、多かれ少なかれ不当な差別や不利益を被ってきている。数世紀前、大航海時代という新しい時代の幕開けとともに、巨大な世界経済のシステムに組み込まれた制度が、現在の社会に負の遺産(と多くの黒人によって見なされるもの)を残している。 奴隷貿易については、国家が、あるいは自治体が、「謝罪」すべきなのか。 「過去を乗り越えて未来に生きよう」と言えば、「黒人社会の現実を見誤っている」と糾弾される。といっても、今に生きる人間の行う「謝罪」は、それが内面から沸き起こる個人的な良心の呵責によってなされるものではありえない以上、表面的で形式的なものとならざるを得ない。以下のTIME誌の記事には、このジレンマについて触れられています。(添付した写真はこの記事からとりました。背中を鞭で打たれた痕が痛々しく残る、奴隷であった黒人の写真です。)




「謝罪」という語には捩れがある。利害関係のにおいがする。 ただ、歴史というものは、連続的なもので、特に奴隷貿易のような数世紀にわたって世界経済の仕組みに組み込まれたものは、たとえ制度が廃止されたところで、その社会的影響は脈々と現在まで生き続けている。 そして、われわれは、歴史なしにアイデンティティを語ることが難しい。白人の白人としてのアイデンティティと、黒人の黒人としてのアイデンティティが、歴史的な事情によって大きく違ってくることは容易に想像がつくし、マイノリティとして生きる黒人の歴史的アイデンティティについて白人が言及しようとすれば、「私は当事者ではない」という開き直りか、形式的な、慰めとしての「謝罪」以外の方法はなかなか難しいように思われる。「黒人も奴隷供給の当事者だった」という主張は正しいかもしれないけれど、マイノリティとして生きる黒人は、おそらくほとんどの場合、そういった歴史的物語を自分のアイデンティティにして生きていない。


国家による「謝罪」が、直接的な関係者が不在の文脈で行われる場合、「謝罪」という記録を相手の歴史に残し、その解釈を長期的に相手に委ねることにこそ意味を持ちうるのかもしれない。 歴史を背負っているということ、そして「違う歴史」を背負った他者がいるということの困難は、日本人にとっても無縁ではありませんね。ゆっくりと考えていきたいテーマです。

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